マンション基礎知識BASIC KNOWLEDGE
2020.02.27
はじめての大規模修繕を考えよう
分譲マンションに住んでいると10数年ごとに行われる「大規模修繕」。聞きなれない言葉に、近寄りがたいイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?今回は、マンション管理の専門家にお話を伺い、「はじめての大規模修繕」で知っておきたいポイントをお伝えします。
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【取材先】
株式会社マンション管理見直し本舗
代表取締役 村上智史さん
https://www.yonaoshi-honpo.co.jp/ -
マンション管理士
中小企業診断士
宅地建物取引士
私のマンション、大規模修繕の予算は?タイミングは?
たいていの分譲マンションでは「長期修繕計画」を作成していますが、その計画内容を確認したことはありますか?マンション購入時になんとなく確認して、まだまだ先のことだと思った方も多いのではないでしょうか。マンション管理士の村上さんは、「大規模修繕のタイミングの前に一度内容を確認して、本当に適切な内容になっているかチェックしてみることが大事」といいます。
まずは、大規模修繕が必要になるタイミングと、計画内容についての一般的な条件を把握しておきましょう。
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実施すべき時期は?
一般的には12~13年周期と言われていますが、マンションの立地条件、当初の施工状況や周辺環境などによって変わってきます。たとえば海に近いエリアでは塩害の影響を受けて鉄部が錆びやすかったり、当初の施工品質が悪い場合でも劣化が進行しやすいです。つまり、実際にどのタイミングで大規模修繕を行うべきかは、個々のマンションの劣化の進行度合いや立地環境などによって異なるのです。そのため、事前に建物劣化診断を行い、その結果に応じて修繕すべき箇所の選定と適切な実施時期を検討していくことをお勧めします。なお、日頃チェックがしにくいバルコニーなどの専用使用部分に関する不具合等は住人向けのアンケートを実施して事前にヒヤリングしながら把握するとよいでしょう。 -
工事期間や予算はどれくらい?
工事着工から完成までの期間は小規模マンション(50戸以下)で2~3ヶ月、それ以上の規模ならは5~8ヶ月程度かかるとされています。ただ、建物劣化診断⇒修繕の対象範囲の検討⇒施工方法の検討⇒見積もりの取得⇒施工会社の選定といった一連の準備期間を含めると足掛け2年くらいのプロジェクトになります。
大規模修繕にかかる費用については、ちまたで「1戸あたり100万円前後が目安」と言われますが、マンションの規模や、経年劣化に伴い必要となる修繕の対象範囲によって当然変わってきます。上記のとおり、大規模修繕を検討する際にはまず建物調査診断を経て必要な修繕箇所を把握したうえで、同一の工事仕様と数量積算書をもとに複数の工事業者から見積もりを取得して比較検討することをお勧めします。
大規模修繕のタイミングで理事会役員になったら
大規模修繕に際しては、普段のマンション運営同様、管理組合を中心に意思決定、工事の計画などを進めることになります。では、実際にはどんな作業が見込まれるのでしょうか。
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修繕時期における管理組合・理事会の役割とは?
大規模修繕の検討に際しては、管理組合の執行機関である理事会に業務負荷がかかるため、これをサポートする諮問機関として修繕委員会が別途設置されることも多いです。その場合、4~5人程度の修繕委員が選出され、管理会社・設計事務所・施工会社・理事会など関係者との調整を進めていくことになります。 -
現状の修繕積立金で足りるのか?長期修繕計画の内容を確認しよう!
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」( http://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf )によると、修繕積立金については専有床面積あたり200円/m2(月額)前後が必要(3LDK・70m2の場合なら14,000円/月程度)とされています。しながら、ほとんどの新築マンションでは、このガイドラインで示される目安額の半分以下とかなり低めに設定されているのが実態で、将来的に増額改定を強いられるリスクが高くなります。
まずは、ご自身のマンションの修繕積立金が適正な水準にあるか確認することをお勧めします。もし現状の積立金では足りないと思われる場合は、なるべく早く修繕積立金の増額改定を検討するようにしましょう。 -
工事はどこに、どのように発注するの?
大規模修繕の発注方式は、主に以下の2つのパターンに分かれます。
・設計から施工、品質管理まですべて工事会社に任せる「責任施工」方式
・設計監理業務と施工業務の発注先を分離する「設計監理」方式
責任施工、設計監理のどちらの方式にも一長一短があるため、一概にどちらが良いとは言えません。ただ、いずれの方式を選択するにしても、複数の業者から相見積もりを取得せずに進めると、本来まだ修繕の必要性の小さい範囲も対象に含められたり、競争原理が働かないために結局は「高くつく」リスクがあることを念頭に置いておきましょう。
なお、依頼する施工会社によってはその信用力に不安を感じることもあるかもしれません。そのような場合には、国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任保険法人が取り扱う「大規模修繕工事瑕疵保険」への加入を発注の条件に加えることをお勧めします。
工事後に施工時の瑕疵が見つかったために適切な補修を工事業者に請求する際に、その工事業者が資金不足や倒産などで自ら修繕できなくなった場合でも、上記保険法人に請求することによって実質無償で補修工事を実施することができるので安心です。
大規模修繕に関連する業務は多岐にわたりますが、重要なポイントは以下のとおりです。
(1)現在の長期修繕計画をふまえて、実施予定時期や修繕積立金の水準等を確認する。
(2)建物劣化診断や住民アンケートを事前に実施して必要な修繕範囲を決定する。
(3)修繕工事の見積もり取得の際には、複数業者から相見積もりを取得する。
(4)工事業者への発注条件として「大規模修繕工事瑕疵保険」への加入を加える。
大規模修繕時にマンション住民として考えること
理事会、修繕委員会には参加しないものの、大規模修繕を控えたマンションに住んでいる人は多いのではないでしょうか。住民の一人として、どんなことに気をつけたらいいでしょうか。
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長期修繕計画と修繕積立金を確認する
大規模修繕の担当者にならなくとも、住んでいるマンションの長期修繕計画は確認しておきましょう。どのタイミングでどんな修繕をしていくのか、修繕費は足りるのかなど、理事会や管理会社に確認すれば情報をもらうことはできます。総会の際に管理組合に委任状を出すばかりではなく、ときには状況確認のために出席すると、自分のマンションの積立金状況や課題も見えてきます。 -
バルコニーなど専用使用部分で気になる点は管理組合(理事会)に伝える
専有使用部分にあるけれども、共有部分に該当するバルコニーなど外部から確認しにくい箇所の経年劣化など、気になったら管理組合に伝えておくと、大規模修繕時に検討も可能です。また、宅配ボックスの設置やセキュリティ設備の追加など、リノベーションを伴う工事の要望もあらかじめ伝えておくと、検討事項に入る可能性があります。一人の住民として、改善提案を上げることで資産価値の向上にもつながります。 -
大規模修繕が円滑に実施できるように協力する
実際に大規模修繕の時期になると、ベランダに設置したものを一旦撤去する必要があったり、洗濯物を干せなかったり不便さを感じることもあります。一時的には生活しにくくなりますが、マンションの資産価値を長く維持するために大事な期間と心得て気持ち良く協力しましょう。工事説明会などにも積極的に参加し、共助の精神で臨みましょう。
大規模修繕という言葉に、身構えてしまいがちですが、マンション劣化に大きく影響する防水工事を中心に、住まいを守るためには大事なものです。誰かに任せているから大丈夫、ではなく、自分のマンションの未来を守るために、改めて長期修繕計画を見直し、当事者として理解しておきましょう。資産を守るのは、自ら動く気持ちから、かもしれません。