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2023.05.25

サステナブルファッションで体感する循環型社会

サステナブルファッションで体感する循環型社会

日常を共に過ごす衣類ですが、手放す方法は約68%が「ゴミとして廃棄」(環境省HPより)。そして、廃棄された服の処分には様々なコストや自然への負荷が生じます。こうした状況に対し、ファッション・繊維企業と国は2050年に向けて「カーボンニュートラル」「ファッションロスゼロ」の実現を目指す取り組みも進めています。
衣類の生産から着用、廃棄までのプロセスにおいて、持続可能であることを目指す「サステナブルファッション」の実践として、私たち一人ひとりが環境のために衣類を選ぶことが重要になってきます。今回は、自然に優しく、人とのつながり作りにもつながる、循環型社会における衣類への新たな取り組みをご紹介します。

【取材先】
株式会社ワンピース 代表取締役 久本和明さん

1984年1月30日生まれ。姫路市出身。2004年に株式会社ワンピースを設立。現在は、代表取締役を勤めながら、「服の交換会」や「ぐるり」など、「人々の毎日に、喜びや幸せや喜び感動の溢れる世界を作る」社会活動に挑戦中。

株式会社ワンピースhttps://onepeace-net.com/
服の交換会https://onepeace-net.com/koukan.html
ぐるりhttps://onepeace-net.com/gururi.html

不要な服は「捨てるもの」?

ここ数年、「ミニマリスト」 や「整理術」といったキーワードが注目を集め、余計なものを持たず、身の回りを整えて暮らすことに魅力を感じる人が増え、服でもそうしたトレンドが見られます。一方で、「サステナブルファッション」「服の持続可能性」の視点から、「循環型社会」という社会そのもののあり方と服の関係についても注目が高まっています。そこで今回は、「自分にとっては必要なくなったもの」を、捨てるのではなく引き継いでいくという取り組みを実施する、久本和明さんにお話を伺いました。

服にはお金で測れない「価値」がある

もともとアパレル企業を経営していた久本さん。会社で作っている服については、一般的なアパレル企業同様、国内で考えたデザインを海外の工場に発注して制作・販売するというもので、いわゆる「サステナブル」なものではありませんでした。
「アパレル業界ではイメージ戦略的にこの言葉が使われている気がしています。たとえば、オーガニック素材にはサステナブルで環境に良さそうなイメージがあるしれませんが、実は工業製品として作られる時点でかなり環境負荷が生じるんですよね。極論を言うと自分が素材から作って自分で着るというのが真の“サステナブルファッション”だと思います(笑)」(久本さん)
そんなアパレル業界の現状を横目に「本質的なことを考えたら廃棄問題の方が重要だと感じた」と言います。
「ファッションの楽しみ方は“買う(消費する)楽しみ”と“着る(美しくする)楽しみ”の2つがあると思います。でも日本、特に女性については買う楽しみを感じられる方が多いようです。だから、業界もいっぱい作る」
結果として、不必要なほどに服が作られ、廃棄されていくという不健康なサイクルになっており、そこに気持ち悪さを感じたのだそう。
「服を作っていると、人によって服に対する基準の多種多様さを実感しました。デザインやサイズなど人によって魅力を感じる基準が違うので、同じ服でも価値を感じる人と感じない人がいるんですよね。ですから、着なくなった服は1キロ単位でしか売れなかったり、知人に譲ろうとしても譲り先が難しかったりします」
そんな現状に疑問を抱いた久本さんが考えたのが、「みんなで楽しく“自分の持っている何か”をシェアしあう」仕組みでした。
「女性たちは“新しい服を買う(手に入れる)”ことが満足につながっている」と考えた久本さんは、手に入れることは、買わなくても、交換でもできる、そうすればの廃棄される量も減らすことができると考えました。「そういう不要なものの譲り合いでつながるゆるやかなコミュニティを作りたい」と考えるようになったそうです。

「不要なもの」を「必要な人」へ

実際に「ぐるり」や「服の交換会」といった不要となった服を交換する取り組みを通じて「廃棄を減らす」活動をしている久本さん。参加者に費用負担がない取り組みが多く、常設店の設置や全国ツアーの開催などでメディアを賑わせています。

久本氏提供写真:新宿御苑やファッションビルでの「服の交換会」の様子

「ぐるり」や「服の交換会」の取り組みは、もとは地域のママたちの居場所づくりの一環として、不用品交換から始まりました。その後、 久本さんの経営者同士のつながりから、全国展開するファッションビルで「服の交換会」として開催されるようになっていきました。立派なファッションビルの一角でポップアップショップのような形で実施されていたり、常設展ができたりと、本格的な店舗展開のようですが、実は会社としてではなく、久本さん個人の取り組みとして行われてきました。
「個人的には“社会にいいこと”というのはお金をかけずにやりたいと思っているんですが、それを会社としてやろうとすると利益相反になってしまいます。そこで、僕個人がやって、会社や他の企業の方もボランティアベースで巻き込んで実施しています」(久本さん)
これには、お金を介した「売り」「買い」という「その都度完結する関係」ではなく、モノやスキルを提供し合うというやり取りによって生じる「継続性のあるつながり」が魅力なのだと言います。
「利用者の皆さんにも、自分の持っている(不要な)ものを持ち寄ってもらい、欲しいものがあれば持ち帰ってもらう。そしてそれを運営している僕らも、『お金はいらないから、労働力や能力を提供してほしい』と、ボランティアベースでいろいろな人に協力してもらっています。こういうふうに、みんなで楽しく『自分の持っている何か』をシェアし合う場所を作っていくところに意味があると思っています。また、自分にとって不要なものが、目の前で必要な誰かにもらわれていく達成感や満足感、これは服を買う・捨てる文化では経験できない喜びです。僕はこういった仕組みが当たり前になるにつれ、結果的に廃棄物が減り、環境負荷が下がる一助になると思っています」(久本さん)

無駄なものを捨てずに循環させて、さらにその場を作り上げることで「関係性」や「信頼」といった無形の価値を生み出すという点が、この取り組みの肝になっています。

「不要なもの」がかけがえのない「人間関係」に変わる

「誰かにとって不要なものも、他の誰かにとっては必要なものかもしれない」──インターネット上のフリーマーケットの普及で、この発想自体は一般的なものになってきました。しかし、あくまで「お金」を介在させることで成立するものが多いのが現実です。
最後に、あえてそれを「無料」で実施することで生まれる効果についてお伺いしました。

久本氏提供写真:都内ファッションビルでの「服の交換会」の様子

「例えば、フィジーでは究極のシェアリングエコノミーが成立しています。全てが共有され、お願いしたりされたり、貸したり借りたりが当たり前の世界。人と人とのつながりや信頼性が前提として成立する社会なんですよ」(久本さん)
もちろん、シェアするということは常に完璧な新品を手に入れられるわけではなく、希望通りの品物やサービスが受けられるわけでもありません。しかし、久本さんが目にしたフィジーでは、困ったら誰かに頼れる、困っている人がいたらそっと手を差し伸べる、そういったセーフティーネットとしても機能する仕組みが成立しているのだそうです。『ぐるり』や『服の交換会』といった取り組みは、そうしたシェアリングエコノミーの世界をまずは体験してみることができそうです。
「今後は、マンションのような集合住宅でも、血縁ではないけれど、鎧を外して付き合えるような繋がりを持った『拡張家族』をもつことが大事になってくると思うんです」(久本さん)
核家族が当たり前になり、コミュニティ形成に苦慮するマンションも多いのが現状です。そんな中、「マンション内に知り合いを増やす」ことに始まり、「ちょっと子どもを預ける・預かる」という助け合いが成立する環境を作るには、参加ハードルが低くて実利のある「服の交換会」のようなイベントをやってみるというのも、一つの手段かもしれません。

私たちに身近な存在であるファッションが持続可能な存在であるためには、シェアリングエコノミーが成立する社会が大きなヒントになりそうです。地縁・血縁といった人と人とのつながりが乏しくなり、「コミュニティ」の重要性が見直されている現在、ファッションを通したコミュニティづくりは、同じ価値観を持つ人同士が緩やかにつながりあえるきっかけにもなるでしょう。豊かなマンションコミュニティを育て、より居心地のよいマンションライフへつながっていきそうです。

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