プロに聞く!暮らしと住まいの成功術PROFESSIONAL
2021.09.30
ナチュラルクリーニングで環境にも自分にもやさしく!
環境や人に優しいお掃除として人気を集めている「ナチュラルクリーニング」ですが、「そういう方法があることは聞いたことあるけど、実際何をどう使えばいいの?」という方、「合成洗剤と比べると洗浄力がイマイチ」と思っている方も多いのではないでしょうか。今回は、エコで自然にやさしく、小さなお子様やペットがいるご家庭でも安心して使えると評判の、自然素材を使った掃除「ナチュラルクリーニング」を専門家が伝授します。
取材先:ナチュラルクリーニング講師 本橋ひろえさん
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北里大学衛生学部化学科(現・理学部化学科)卒業。就職後、化学事業部にて水処理事業、化学薬品販売、合成洗剤製造などを担当。子どもが自身と同じアトピー体質であったことから、掃除、洗濯、洗剤を主婦目線で、かつ化学的に解説するナチュラルクリーニング講座をスタート。
著書に「ナチュラルおそうじ大全」(主婦の友社)、「ナチュラル洗剤そうじ術」(ディスカバートゥエンティワン社)のほか、NHK Eテレ「まいにちスクスク」出演など、メディア出演も多数。
「ナチュラルクリーニング」とは?
子育て世代や節約派のご家庭を中心に注目されている「ナチュラルクリーニング」。「安全で合理的、経済的!」とメリットがあげられていますが、実践しようとすると何をどう使ったらいいのか迷ってしまう方も多いかもしれません。そこでまずは「ナチュラルクリーニングキホンのキ」について伺いました。
そもそも「ナチュラルクリーニング」とは?
本橋さんが推奨する「ナチュラルクリーニング」は「合成洗剤」を使いません。そのため、肌にも地球にも優しい素材で、小さなお子さんやペットがいても安心して使える、そんな洗剤を使ったクリーニング方法です。
「汚れの性質に合わせた洗剤を使うのが『ナチュラルクリーニング』の特徴です。汚れの質が同じなら同じ洗剤が使えるので、場所に合わせて様々な洗剤を用意する必要がなくなり、収納場所もコンパクトになりますよ」(本橋さん)
ちなみに、昨年コロナウィルスがはやり始めた頃、ハンドソープが店頭から姿を消すということがありました。しかし、ハンドソープと同様の成分なら、ボディソープでも同じ効果ですから、隣の棚にあるボディソープを使っても問題はないのです。
用途で分ける5つの洗剤
4~5種類の天然成分でできた洗剤を使い分ける「ナチュラルクリーニング」。どの洗剤がどういう汚れに効果を発揮するのか、それぞれの役割を理解しておきましょう。
●酸性の汚れにアプローチする「アルカリ性」洗剤
石けん:アルカリ性の界面活性剤で、油汚れを落とすのが得意。
重曹:水に溶かして使用。アルカリ性で酸性の汚れを落とす。
調理で生じる油汚れや排水口や生ごみなど食品由来の汚れが発生するキッチンで重宝する。そのほか、皮脂や汗、血液やたんぱく質に由来する襟袖汚れ、お風呂のざらつきなど、人間の体から出るものにも有効。
●アルカリ性の汚れにアプローチする「酸性」の洗剤
クエン酸:水に溶かして使用。酸性でアルカリ性の汚れを落とす。
水道水に由来する水あか(お風呂に発生するウロコ状の汚れや、食洗器、加湿器の受け皿など)、石鹸カスの掃除にオススメ。アンモニア臭やタバコ、魚の生臭いニオイを消臭するのにも使用できる。
●雑菌類にアプローチする「除菌剤」
アルコール:消毒用エタノールを使う。消毒、除菌効果が高く揮発性が高い。
過炭酸ナトリウム:お湯に溶かして使用。アルカリ性で除菌、漂白力を持つ。カビや部屋干しなどのイヤな臭いの消臭に使用します。
●着色汚れにアプローチする「漂白剤」
過炭酸ナトリウム:お湯に溶かして使用。アルカリ性で除菌、漂白力を持つ。
カビで黒くなってしまった汚れなどをきれいにします。
汚れ別!オススメ・テクニック
ナチュラルクリーニングを実践するには、洗剤と汚れの相性を正しく理解して使い分けるのがポイント。掃除をしたい場所別に、ぜひ覚えておきたいテクニックを伺いました。
●キッチンのお掃除のポイントは「雑菌対策」と「油汚れ」
雑菌が繁殖しやすいシンクは、使うたびに掃除をしましょう。コンロの油汚れは付いたらその都度拭くのがキレイを保つポイントです。換気扇の掃除は1~2か月おきにするといいでしょう。油汚れは温度で汚れ落ちが変わるので、気温の高い季節の方が洗いやすい場所です。
「冷蔵庫の上に油分を含んだホコリが溜まっていることがありませんか?換気扇はキッチンで発生する蒸気と空気中の油を吸い集めるためのもの。汚れがたまって機能が落ちると、十分に油を吸い集めることができず、部屋中にキッチンの油が拡散、それがホコリに絡んで落ちにくい汚れになります。換気扇をきれいにすることで、他の場所の掃除が楽になるので、頻繁に掃除してほしい場所です」(本橋さん)
換気扇の掃除はおっくうという方も多いかもしれませんが、頻繁にしていれば掃除にかかる手間もだんだん楽になってくるそうです。
●お風呂場のお掃除のポイントは「カビ対策」
温度・湿度・汚れがそろうとカビが繁殖します。カビは雑菌の一部です。毎日最後に使用した人が排水口のごみを取り除き、乾かしましょう。床・壁も、最後に使用した人が飛び散ったシャンプー類を洗い流し、スクイージーで水切りすると、カビを防げます。また、カビが繁殖する場所になるモノを置かないことも、カビ防止のポイントです。浴槽にお湯をためたままにすると雑菌が繁殖するので、使用後は排水するようにしましょう。使用した直後であれば、洗剤なしでもきれいにすることができます。
●洗濯のポイントは「汚れの量で洗剤・水量を調節すること」
ニオイは原因によって使用する洗剤が変わります。男性の衣類が臭う原因となる「皮脂汚れ」=油汚れですから、洗濯時にお湯を使うと解決できます。生乾きの臭いは雑菌の排せつ物が原因なので、洗い残しに繁殖する雑菌が少なくなるよう、きちんと洗うことが大切。
「お風呂のお湯は30℃以下に冷めると急激に雑菌が増えます。入浴直後の残り湯で洗濯をすれば、雑菌の心配もなく、洗濯物の汚れ落ちもよくなりますよ」(本橋さん)
そして何よりも気を付けたいのが、洗濯機の表示任せにしないこと。
「洗濯機は自動で水量や洗剤の量を決めてくれますが、これは洗濯物の重量で判断しています。冬場はいいのですが、衣類が軽いわりに汗などで汚れが付きやすい夏場は、洗濯機に任せると必要よりも洗剤や水量が少なすぎることもあります。洗濯機任せにせず、汚れの量に応じて水量や洗剤の量を判断して洗濯しましょう」(本橋さん)
気になるウィルス対策は?
放っておくと繁殖し続けるカビや雑菌と違い、拡散されても3日ほどで消滅するウィルス。とはいえ、このご時世ではどう対策したらよいか気になるという方も多いでしょう。
「除菌を目的にするなら、アルコールなどの除菌剤を使うといいでしょう。トイレの使用直後に使うとアンモニア臭を防ぐこともできます。洗濯ものの部屋干し臭にも、除菌剤が有効です。アルコールはカビ予防にもなるので、ちょっとかび臭い部屋などはアルコールで拭いておくと予防になりますよ」(本橋さん)
※ トイレでアンモニア臭が発生している場合は、クエン酸での掃除が必要です。
細く長く、続けるためのコツ
ネットなどでナチュラルクリーニングを実践した方の意見を見てみると、絶賛する方と挫折してしまったという方など、人により意見が割れているようです。きちんとメリットとデメリットを理解して、自分のペースで続けるためのコツを聞きました。
実は酸性の汚れが8割。まずはアルカリ性の洗剤を試してみて
その原因の多くは、本や雑誌、ウェブサイトなどで間違った情報がたくさん発信されているから。洗剤と汚れについて化学的な特徴を知り、何がどこに効くのか把握していれば、そういった情報には間違いが多いことにも気付けます。
「ナチュラルクリーニング」では、汚れに合わせて洗剤を使い分けます。一般的な洗剤は台所・洗濯・住居など使う場所によって分かれているため、「何の汚れを取るためにその洗剤を使っているのか」という点をあまり意識していない方が多いかと思います。あくまで汚れとの相性を意識するようにしましょう。
「キッチンの油汚れや人間から出る皮脂、腐敗した食品または嫌なニオイがする生ゴミなど、家の中の汚れやゴミには酸性が多いので、アルカリ洗剤が有効です。家庭のお掃除や洗濯で洗剤が必要な汚れの8割はほぼ酸性のものなので、重曹やセスキなどのアルカリ性洗剤が効果的です」(本橋さん)
ナチュラルクリーニングで失敗しないために
洗剤にはそれぞれ有効な使い道があります。本や雑誌の情報をうのみにして、間違った使い方をしないように、化学的な知識も必要になります。
例えば、変色や塗装の剥がれなど思わぬトラブルを経験する人もいますが、それも洗剤の化学的な特性を理解せずに使っているから。油を溶かす作用のあるアルコールは油性のワックスや艶出しの塗料をはがしてしまったり、アルカリ性の洗剤はアルミ製品や畳を変色させるなど、汚れ・使う場所・洗剤の相性をきちんと意識して使わないとトラブルの原因となります。
自分のペースで細く長く続けるためには「汚さない」
室内環境を清潔に保つためには、「汚さない」「汚れをためない」「汚れやすいものを置かない」の3点を意識しましょう。また、洗いにくいアイテムを避けることも、キレイを保つポイントです。また、毎日家じゅうすべてをきれいにして回るのは難しいですし、ストレスの素になります。毎日掃除が必要な場所と時々でいい場所など、場所によって頻度の違いを意識しておくと気が楽になります。
少量で効果のある洗剤ほど、洗剤の後始末・後処理に手間がかかります。汚れ落ちの良い、強力な洗剤ほど、すすぎがたくさん必要になるものです。掃除が嫌い、面倒と感じる方は、極力すすぎやふき取りのいらない洗剤を選びましょう。
「油汚れにしても、汚れてすぐなら、洗剤がなくてもキッチンペーパーなどで拭きとってきれいにできますよね。時間がたつと固まって洗剤を使わないと落ちなくなってしまうんです。だから、汚れる場所にはすぐに拭いて捨てられるものを置いておく。我が家ではトイレットペーパーをケースに入れて置いています」(本橋さん)
「掃除」という意識を持たない程度の行動でキレイを保つ工夫が、ナチュラルクリーニングとうまく付き合うコツのようです。
今回は家族の健康を守りつつ気持ちの良い環境を保つヒントをお届けしました。掃除を楽にするには、そもそも掃除が楽になる環境作りから……まだまだステイホームが続きそうな昨今、より快適な暮らしのために生活を見直すのもいいかもしれません。
※本コラムでご紹介の掃除方法を実施の際は、目立たない場所であらかじめお試しください。