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2023.07.27

子どもに伝えたいインターネットリテラシー

子どもに伝えたいインターネットリテラシー

2022年5月の調査(内閣府)では小学生のインターネット利用が9割以上。コロナ禍のリモート授業やプログラミング学習の必修化などを通して、子どもがデジタルデバイスを活用し、インターネットに接する機会が増えています。子どものIT端末利用の制限が難しくなっている状況下で、むやみに引き離すのではなく、リテラシーを高め、安全にインターネットを利用するヒントを、幼児教育の専門家でNPO法人子どもとメディア代表理事の山田眞理子さんへ伺いました。

【取材先】
特定非営利活動法人子どもとメディア・代表理事 山田 眞理子さん

広島大学教育学部卒業後、京都大学大学院教育学研究科修士・博士課程修了。九州大谷短期大学幼児教育学科講師を経て教授。学外では「保育心理士資格」設立に尽力。 2012年九州大谷短期大学名誉教授、NPO法人「子どもと保育研究所 ぷろほ」を設立。NPO法人「チャイルドライン もしもしキモチ」代表理事。

子どもとメディア:https://komedia.or.jp/

子どもとインターネット、その現状

ゲームや動画などといったエンターテインメントコンテンツ視聴のみならず、学校教育においてもデジタルデバイスの使用機会が増えている昨今。子どもたちにとってインターネット利用はなくてはならないものとなってきています。今回は、子どもたちとインターネットの現状について、改めて確認しておきましょう。

真の「デジタルネイティブ」がどう育つか

お話を伺ったのは、幼児教育の専門家で特定非営利法人子どもとメディアの代表理事でもある山田眞理子さん。スマホやテレビを含む広義のデジタルデバイスが子どもの成長に及ぼす影響を軸に、理想的なかかわりについて教えていただきました。

「0歳からインターネットをはじめとするメディアに接している世代というのは、まだ思春期前の子どもたち。ですから、それがどういう影響を及ぼすかということについては、結論は出ていません」(山田さん、以下カッコ内同)

1990年以降に生まれ、インターネットやデジタル機器がある環境で生まれ育った人は、「デジタルネイティブ」と呼ばれることがあります。さらに若い、0歳からそういったものに触れて育った世代については、いまだ成長過程にあるため、その影響については経過観察中です。

「そもそもWHO(世界保健機関)は2歳未満にはデジタルデバイスを見せないように、と発信しています。それでも見せるか?そういった判断が問われています」

スマホが普及してデジタルデバイスが持ち歩きやすくなった昨今、初接触の低年齢化は進んでいます。そのような状況を受け、WHOは小児の健康な成長に関するガイドラインの中で、すでに運動や睡眠の時間と並んでデジタルデバイスの使用時間の基準を設けています。世界的に見ても、子どもたちの健全な成長のためにはある程度の制限が必要なのは間違いないでしょう。

デジタルデバイスとの接触はいつからOK?

幼少期のデジタルデバイス利用の弊害についても様々に指摘が行われていますが、その多くが知的あるいは精神的な影響が多いようです。しかし、山田先生は、その影響は身体機能に影響するものの方がむしろわかりやすい形で現れると指摘します。

「赤ちゃんが目を使って物を見るのは、生まれてからです。眼球で物を見るというのは、物体に焦点を合わせて脳に像が結ばれるということです。この調節機能や遠近感を判断する能力は、0歳のときにぐっと進みます。それ以降は視力は上がりますが、こういった視覚認知機能自体は5~6カ月までに出来上がってしまうんです」

この段階で、脳で遠近感を判断する能力が十分に発達していないと、運動能力に影響が出ると言います。

「普通の世界では右目と左目、それぞれ違う画像でものを見ているので立体に見えるんです。しかし、スマホだけでなくテレビもそうなんですが、右目と左目で平面上の同じ画像を見ている状態では、遠近感が認識できません。立体的にものを見る習慣がないと、日常生活で遠近感がわからず、けがをする確率も上がりますし、スポーツにも差しさわりが出ます」

そのため、0歳の間は一切見せない、1歳児でも極力見せない事が大事だそう。

「0歳で遠近感をきちんと脳が判断できるようになり、2歳を過ぎると二次元画像の中と自分の世界の違いを認識できるようになります。個人差はありますが、3歳の誕生日を過ぎた頃からは見せても遠近感には問題はないと思います」

3歳の誕生日というのは解禁の目安ではありますが、その後は制限なく使用していいというわけではありません。
動画やアプリの利用に関しても、「教育コンテンツ」を謳っているからと言って必ずしも効果が保証されているわけではないため、使用の際の配慮は必要になりそうです。

「WHOのガイドラインにある、スクリーン視聴上限1時間(2~4歳)の中でも、遠方に住む祖父母とのテレビ通話など、コミュニケーションツールとしての使用を推奨しています」

また、リビングに大画面テレビがあるご家庭などでは、「子どもがテレビを見たがって困る」とお悩みの方も多いかもしれません。実は、何もついていない大画面のテレビを怖いと感じ、不安を解消するためにテレビをつけてほしいと言っている場合もあるそうです。 最近は、テレビを収納するキャビネットを設置したり、大きな絵でモニターをカバーし、必要なときだけ画面を出したりするインテリアもあります。

「マンションでもこうした工夫ができるはずですから、取り入れて欲しいですね」

年代別、インターネットとの関り方

GIGAスクール構想(2019年に開始された、全国児童・生徒1人1台の端末・ネットワーク環境を整備する文部科学省の取り組み)によって、デジタルデバイスとの接触が解禁された後も、子どもの年代によってもインターネットの利用目的や問題点は変わってきます。そこで、小学生以上の子どもに気を付けたいことを教えていただきました。

「トータルスクリーンタイム」を基準に考える

タブレット学習が導入され、「モニターに向かっている時間=スクリーンタイム」が急増する、小学校入学以降。この年代ではモニターに向かっている時間の「長さ」を意識するとよいそうです。

「スクリーンを見ている時間が長ければ長いほど、他の活動に割ける時間は減ります。スクリーンタイムに外遊びの時間がうばわれた結果、子どもたちの体格は向上している一方で運動能力が低下しているんですね。スポーツクラブや地域のチームで体を使っている子どもたちもいるので、平均値としてはあまり変化がないのですが、運動している子としていない子で二極化が起きているのが現状です」

思春期までの子どもについてはどれだけ体を動かしたかが健全な成長に関わってくるため、コンテンツの内容が教育的かそうでないかは問題ではなく、モニターを通してメディアに接している時間を意識することが大切だそう。

「(小学校低学年以下の)子どもの遊び相手をスマホに任せてしまうこともあるかもしれません。そうした時間をなくすのは難しいでしょうから、その分、スクリーンタイムと同じ時間、親子の関りの時間を持って、人との関わり時間を取り戻してほしいですね」

まだ自分で判断できない子どもに関しては、親が関わる時間のバランスを意識した対応をする必要がありそうです。

時間とバランスで考える「メディアリテラシー」の第一歩

学校でのタブレット学習が導入されたことで、一人1デバイスが当たり前になった昨今。大人が一方的に子どものメディア接触を制限するのが難しい状況でもあります。

「大人が子どものスクリーンタイムを管理する時代はもう終わりました。私たちは、メディアリテラシーをきちんと教えるべきだと考えています。(その第一歩は)1日のスクリーンタイムと体を動かした時間を、子どもが自分で把握して、アンバランスに気づけるようにすること。少なくともスクリーンタイムと同じかそれ以上に体を動かしてほしい。デバイスを与える時点で、その点をきちんと伝えたいですね」

山田さんは、毎日3時間は太陽の下で息が上がるようなしっかりした運動をしたか、自分でチェックすることができる習慣作り、またそのためのカリキュラムが必要だと指摘します。
また、自分で判断することが難しい小学校低学年までは、親が意識して「スマホより面白いこと」を提示してあげるのが大事だそう。

「小学校低学年までなら、キャンプでも魚釣りでも、誘えばついてきてくれます。そういった関わりを持つことで、スマホより楽しいことがあることを知ることができます。こうした出会いを作るのは大人の責任ですね」

目標は、「自分で適切な使用状態を管理できる」こと

学年が上がるにつれて問題になるのが「依存」の問題。簡単なチェックの仕方ですが、「1日デジタルデバイスを使わない日を作ってみて、イライラしたら依存の始まり」だと言います。依存をセルフチェックする意識を持てない子どももいますので、昼夜逆転生活になってしまう前に、周囲のサポートで危険性を本人が意識できるようにしたいものです。

「成長ホルモンは寝ている間に出るので、昼夜逆転生活になると背が伸びにくくなります。また、人間というのは夜中の12時から2時までというのは不安になりやすく、心理的に不安定になりがちなので、寝た方がいいものなのです。それを考えると夜11時より前に寝ると、深い睡眠をとることができ、成長ホルモンもしっかり出て、背が伸びていきますよ」

特に思春期の男子などには、やみくもに禁止するよりも、こういったアプローチの方が効果的なのではないかと言います。

子どもを守るためにできること

一方的に接触を制限する時代が終わった今、大人にもこれまで以上のメディアリテラシーが求められるようになってきています。最後に、大人が意識しておきたいことについて伺いました。

まずは「大人が知る」こと

「スマホは危険」という意識は皆さん持っていらっしゃるかもしれませんが、具体的に思い浮かべられる人はあまりいないのではないでしょうか?漠然とした不安で「危ない、危ない」と言っても、子どもには伝わりません。

「大人が先んじてスマホ社会の危険性といったテーマの本を読んで勉強してほしいですね。子どもがその本を読むかどうかは別として、そういったテーマについて親が興味を持っている、自分のことを心配しているなぁということは子供に伝わります」

そういった姿勢が、実際のトラブルの際に子どもが素直に大人に相談しやすくなる下地作りにもつながるのではないでしょうか。

スマホを買い与えるときにやってほしいこと

依存のきっかけとなりやすい「スマホ購入」のタイミングで意識したいこともいくつかあるそうです。名義の問題(親の名義で購入していること)や夜間の使用についてなど、ルールや約束を書いてから購入することが大事だそう。

「約束というのは、行動する人がルールを決めて、自分で守るものです。英語で言うと”I promise.”で、「私」が主語なんです。親が決めて守らせるのではなく、子どもと親が相談する過程を経て、子どもが納得して自分で約束をする行動が大切です」

ルールを作ると、破った場合の対応も必要になってきます。その場合も、ペナルティのルールがあるといいでしょう。自律的に約束を守れるような仕組み作りをしたいですね。

「例えば『スマホは〇時まで』と決めたら、15分過ぎたらイエローカード、イエローカードが3つたまったらペナルティと、段階を踏むといいでしょう。一方で、親のお手伝いをしたり、きょうだいの宿題をサポートしたらイエローカードが消えるなど、人との関わりを持つことでカードが減る仕組みをつくると、リカバーできるルールの中で自らを律し、約束を守れる子になっていきます」

もはや生活インフラの一つと言っても過言ではないインターネット。正しい付き合い方を大人が理解し、子どもと向き合って丁寧に伝えていくことが大切ですね。時代の変化を柔軟に受け入れることで、しなやかなライフスタイルを目指せそうです。

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